皇帝別館

鏑木しずき

鏑木しずき

(20)

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長身グラマー極上ボディ美女

05/23(木)

  • 割引攻略

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狂気がレントゲンに写れば①

02/19 11:46

狂気がレントゲンに写れば①

「私、本当は病気じゃないんです」

雨が降っていた。
夏だというのに、空は重苦しい灰色で、肌寒さすら感じる昼下がりだった。
午前の診察がやや長引いて終わり、昼食を取ったあとでふと思い立って病棟の図書室を訪れていた私は、そこでパジャマ姿の塚本さんと出会った。
椅子を後ろに傾け、サンダルを引っ掻けた蝋のような裸足をテーブルにどかんと置いて読書をしている彼女を後ろから見かけたのだ。
「こら。テーブルに足を置くのはやめなさい。それと、椅子をそんな風に傾けていたら後ろに転んで怪我をするから、ちゃんと座って読みなさい」
カルテの束で軽くこづいて注意すると、唇を尖らせて椅子の前足を地に落ち着けた。
「なんの本だい?」
「......」
塚本さんは目線を文庫本に落としたまま、何も言わなかった。その目に警戒するような色は見えず、ただの“無視”だとわかる。
塚本悠花は18歳の少女で、15歳で外来の初診を訪れてから3年間を通して強い抑鬱症状を訴えており、何度かここに入院していた。
恐らく今回で入院は4回目で、なおかつ期間は今のところ一番長い。担当医は私ではないが、談話室や図書室でここ半年ほど連続して彼女の姿を見、今もまだ退院しそうな様子はない。
この病棟の患者は身寄りのない認知症患者、鬱や精神分裂症の中高年が殆どを占めていて、塚本さんと仲良くなるような若い患者はいない。よって、作業療法室で陶芸をするときも、談話室でテレビを観るときも、彼女は独りだった。けれども、それを本人はさして気にする様子もなく、反りの合わない患者とトラブルを起こすでもなく、大人しく療養している。
担当医と担当の看護師を除いて、スタッフも彼女が入院している理由をよく知らない。しかしながら、比較的落ち込みも少なく、自傷他害や衝動行為もないいい子なので、見かける度に軽く話しかけるスタッフは多かった。
私はそのひとりではなかったが、作業療法の時に何度か言葉は交わしたことがあった。
「面白いのかい?その本は」
問いかけに返答がない患者はそう珍しくない。
腹を立てることもなく、私はもう一度話しかける。これで無視を続けられるようなら、そっと声をかけて立ち去るつもりだった。
しかし、彼女が次に口にしたのはまるで的外れな言葉だった。
「私ね、ほんとは病気じゃないんだよね」