嫌いなことに忠実に生きる ? この本は単なる名言集でも、ファッションや成功について書かれた本でもなかったのだと思う。 これは、自分に与えられた人生が気に入らなかった一人の女性が、自分自身をひとつの作品として作り上げていった記録 ? ? シャネルの言葉はときに鋭く傲慢で、冷たくさえ聞こえた。 ? かけがえのない人間であるためには、人と違っていなければならない ? 私は私の人生を作り上げた。なぜなら、私の人生が気に入らなかったからだ ? 私は確かな嫌悪の精神をもっている ? これらの言葉はただ前向きに生きることを勧める、優しい励ましに感じられなかったけれど、 人と違うことを恐れず、自分の人生に責任を持ちなさいと迫ってくる。 シャネルの言葉には少し怖さを感じた。 憧れるだけなら簡単だけれど、その生き方を本当に自分のものにしようとすると、嫌われることも、失敗することも、孤独になることも引き受けなければならないからだ。 その厳しさこそがこの本の魅力なのだと思う。 ? 好きではなく、嫌いに忠実に生きる ? 姿勢はシャネルの人生と仕事の根に流れている。 普通、人生を豊かにするためにはおそらく好きなものを見つけよう と言われる。 しかしシャネルは、自分が何を嫌うのかをはっきり知っていた。 女性の身体を締めつけるコルセットが嫌いだった。ものの値段によって自分の価値を証明しようとする態度が嫌いだった。 流行に従うだけの服も、若さだけを価値とする考え方も、女性が男性に養われることを当然とする社会も嫌った。 その嫌悪を彼女は愚痴のままにしなかった。 嫌いだから、捨てた。別のものを作った。 自分の美意識を形にした。 黒を喪服の色から洗練の色へ変え、女性が自由に歩き、働き、呼吸できる服を作った。 嫌悪とは他人を否定するための感情ではなく、 これは違う と言えること。 皆が選んでいるから という理由だけで、自分の感覚を裏切らないこと。 嫌いなものを知ることは、自分が何を守りたいのかを知ることでもある。 嫌悪を破壊だけで終わらせず、創造へ変えた。そこに彼女の本当の強さがあるのだ ? 美とは自分を粗末にしないことだった この本の中で語られる美は顔立ちや若さ、身体の細さといった表面的なものではなかった。 美とは自分をどう扱うかという問題 ? 醜さは許せるけれど、だらしなさは許せない ? この言葉には、シャネルの美意識が凝縮されている。 生まれ持った顔や身体は選べない。年齢も重ねていく。人には欠点があり、弱くなる日もある。しかし自分をどうでもいいものとして扱うかどうかは、自分で選ぶことができる。 香水もまた、シャネルにとって目に見えない美しさだった。 服や宝石は目に見えるが、香りは近づいた人にしか届かない。 人が去ったあとにもわずかな余韻として残る。 美しさとは近づいた人の記憶に静かに残るものなのかもしれない。 何かを際限なく足していくことではなかった。 余計なものを削り、自分に必要なものだけを残すことだった。 それは単なる禁欲ではない。 自分にとって何が本当に必要なのかを知っていることが美しいのだと思う。 本物の贅沢とは、物や流行に自分の価値を保証してもらわなくても立っていられることなのだろう。 ? ? 愛されても、自分を手放さない この本の恋愛についての章を読んで感じたのは、シャネルは愛を必要としなかった強い女性 では決してなかったということだ。 彼女は深く愛し、深く傷つき、愛する人に父や兄や家族のようなものまで求めた人だ アーサー・カペルを亡くしたとき、シャネルはすべてを失った と語った。 その言葉からも彼が恋人というだけでなく、理解者であり、彼女の人生を支える土台のような存在だったことが分かる。 シャネルは男性たちから多くのものを受け取った。愛、支援、知性、階級社会の文化、芸術、美意識、世界へ出るための機会。 与えられたものの上に座り込んで生きることはせず努力した。 受け取ったものを自分の感性で分解し、服にし、スタイルにし、自分自身の名前で世界に返していった。 シャネルの自立は誰にも頼らないこと ではなかったのだと思う。 人に愛され、助けられてもいい。誰かを必要としてもいい。 ただしその人の所有物にはならないこと。 支えてもらった場所にとどまり続けるのではなく、受け取ったものを自分の力へ変え、最後には自分の足で立つこと。 ? あなたを愛しているかどうかは、私が独立できたときにわかる ? この言葉はとても残酷で同時に誠実だ。 依存しているとき、人は相手を愛しているのか、それとも必要としているだけなのか分からなくなる。 寂しさを埋めてくれるから一緒にいるのか。生活を守ってくれるから離れられないのか。自分に価値を与えてくれるから求めているのか。 それともひとりでも生きられる状態になってなお、その人を選びたいのか。 自立したあとにも残る感情こそが、愛なのかもしれない。 シャネルの強さは、男性を必要としなかったことではない。必要とし、影響され、傷つきながらも、自分の人生を決める権利だけは渡さなかったことにある。 誰かと一緒にいるために、自分の才能や仕事を諦めない。 愛を檻から翼に変える。 彼女にとって本物の愛とはその人の可能性を外へ押し出すものだったのだと思う。
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