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鳳条 暦

鳳条 暦

(23)

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大切なこと

04/16 17:16

大切なこと

15時を少し過ぎて、16時にはまだ届かない。
電車の中でも、人の気配がふっと薄くなる、あの静かな時間帯。

座っていると、目に入ったのは
海外の貴婦人、と呼びたくなるような女性。その隣に大柄な旦那さま。そばには小さな男の子と、その子を見守るお母さん。

女性は短い髪に黒縁のメガネ。
全身を紺色でまとめた、飾り気のないシンプルな装いなのに、不思議と目を引く。耳元で揺れる大粒の金のピアスだけが、静かな存在感を放っていて、その人の歩いてきた時間まで映しているようだった。
華やかというより、積み重ねられた品のよさ。歳月を味方につけた人の美しさだった。

席を譲ると、隣の旦那さまが少し身体をかがめて、カタコトの日本語で「ありがとう」と言った。よく見るとメガネはお揃いのようだ。


その言葉には、旅先の遠慮と、誰かの親切をまっすぐ受け取る素直さが混ざっていて、聞いたこちらまでやわらかい気持ちになる。

その横で、小さな男の子はずっと車窓に夢中だった。
流れていく景色に目を奪われ、時々身を乗り出しては、お母さんを少し困らせる。
でも、母を困らせる横顔がなんとも可愛らしい。
世界はまだ全部が新しくて、窓の外を流れる街でさえ冒険なのだろう。

お母さんにとっては、きっと落ち着かない数分。
それでも、こうして誰かに少し困らされる時間こそ、あとで振り返れば、いちばん眩しく思い出す時間なのかもしれない。

席を譲ったのは、ほんの小さな行為だった。
けれどその数分で、異国の品のある夫婦と、世界に夢中な幼い横顔と、少し疲れた母のやさしさに触れられた。

電車というただの移動の箱の中で、人生の断片がふっと見える瞬間がある。
今日はそれに立ち会えた気がして、席を譲ってよかったと、静かに思った??
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鳳条 暦

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