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鳳条 暦

鳳条 暦

(23)

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ひとりぼっちの最果て

05/19 09:30

ひとりぼっちの最果て

窓辺で琵琶湖を眺める。

空を見て湖を見て、風を喰む。

何をしてるんだと思うのにおそらく110分かかったのではないだろうか。

貴方といると、時間はもうないも同然。

多くの疑問が駆け巡り、会話は熱をもつ。言葉は温められたポップコーンのように器から弾ける。

部屋は広くてなかなか涼しくならなかった。わたしの心もまだ熱を持つ。

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??人生の交差点
知らない人との一瞬の交差なのにちゃんと人生の温度がある。

電車で隣に座っていたおばさまが、ふいに目を覚ました。
「ここ、○○駅か!」
目を覚ますと同時に、勢いそのまま隣にいた私に聞いてきた。もちろん見ず知らずのおばさまだ。
「ここは△△駅です。○○駅は次ですよ」
そう伝えると、おばさまはほっとしたような顔をした。
「ありがとう。寝過ごしたことがあるから、一瞬びっくりしたわ」
△△駅から○○駅まではほんの数分。そのわずかな時間の中でおばさまは自然に話しかけてきた。
「もうこれから帰りか?」
「いえ、この後学校です。仕事に行くときもあります」
「なんや、忙しいな!仕事何してるん?」
「トレーナーです。ずっとアスリートだったんです」
「へぇー、スポーツは何してたん?」
まあまあ、行きずりの関係にしてはよく話したと思う。不思議と嫌ではなかった。
むしろ数分後にはもう二度と会わないかもしれない人だからこそ、言葉が軽やかだったのかもしれない。
おばさまはふと私に言った。
「あんたみたいな若い子がいると、去り行く私らみたいなんも安心やわ」
去り行く、という言葉が少し寂しかった。
さっきまでただ隣に座っていただけの人なのにその頃にはもう、おばさまがどこかへ行ってしまうことを少し寂しいと思っていた。
「ほな、またね!あ、でもどこで会うかわからんのか」
そう言って笑うおばさまを見て、私も笑った。
そういえば私はこの人の名前も知らない。
どこの誰なのかも知らない。さっきたまたま話しかけられただけの人だ。
それなのにたしかにそこには何かがあった。
私はおばさまに、
「自分の努力が、自分のためだけじゃなくて、誰かの役に立っていると思えることが嬉しい」
というようなことを話した。
その時の空気は少しだけぽわぽわしていた。
電車の中はすでに眠気を誘うような温かさだった。けれど、おばさまとの会話は私の心まで温かくした。

私は人のことがあまり好きではない。
人間観察が癖のようになっていると、どうしても人の汚れた部分まで見えてしまう。少しずつその人の行動や心境が予測できてしまう。
何を隠していて、何を誤魔化していて、どこに弱さがあってどこにずるさがあるのか。
知りたくない面まで見えてしまうことがある。
そのたびに私は、がっかりしたり、怖くなったりする。
人間って面倒だなと思う。
もう私のことなんてほっといてくれと思う。
誰にも近づかれたくないし、誰のこともこれ以上知りたくないと思う。

それなのにこういう出来事は決まって私が人間に疲れている時ほど起こる。

人ってやつはなー…
そうやけになっている時ほど、誰かがふっと現れる。隣の席で目を覚ましたおばさまのように。
名前も知らず、人生も知らず、もう二度と会わないかもしれない人が何気ない言葉で私の心に小さな灯りを置いていく。
たぶん私は人間を嫌いになりきれないのだと思う。
汚さも、弱さも、ずるさも、怖さも知っている。それでもたった数分の会話で人を少し好きになってしまう。知らない誰かの安堵した顔にこちらまで安心してしまう。
「またね」と言われた瞬間にもう会えないことを少し寂しいと思ってしまう。
人間が嫌いだと言いながら、私はきっと人の温度には弱い。
神様は私のことをひとりぼっちにはしてくれないようだ。
ひとりになりたいと願っても人生は時々見ず知らずの誰かを隣に座らせる。
ひとりぼっちの最果てにもきっと人がいるのだろう。誰もいない場所まで逃げたつもりでもそこにはいつか名前も知らない誰かが座っていて何でもない顔でこちらに話しかけてくるのだと思う。
「ここ、○○駅か?」と。
そして私はきっとまた答えてしまう。
「○○駅は、次ですよ」と。

鳳条 暦
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