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最深部で恋をする2
生まれる前から好きだったもの
猫に心を奪われる瞬間を、私たちは自分の意思だと思っている。だが、本当にそうだろうか。
動物行動学者ローレンツは、丸い頭、大きな目、短い手足、ふっくらした頬といった特徴の組み合わせを「幼児図式」と名づけた。人はこの形を見ると、考えるより先に守りたい、触れたいと感じる。人間の赤ん坊を世話させるために、長い時間をかけて刻まれた反応だ。
猫の顔は、偶然にもこの図式にぴたりと重なる。私たちは猫を選んだのではなく、何万年も前の祖先が残した回路に、猫が鍵のように差し込まれたのだ。
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ひたむきな人を応援したくなる気持ちにも、似た古さがある。群れで生きてきた人間にとって、損得を超えて何かに打ち込む者は、集団を前へ進める存在だった。彼らを支える心は、群れごと生き延びる確率を上げた。
だから私たちは、見知らぬ選手の一投に、名も知らない誰かの挑戦に、理由もなく胸を熱くする。
「生まれる前から好きだったみたい」という感覚は、比喩ではなく半分は事実である。
その好きは自分が生まれるずっと前に、誰かの生存と引き換えに編まれたものだ。
ただ、それだけでは足りない。同じ回路を持っていても、ある人は柴犬に、ある人は古い路地に、ある人は雨の匂いに、どうしようもなく惹かれる。そこには、幼い日の光、母の声の高さ、一度きりの夕暮れが、気づかないまま混ざっている。
つまり「なぜか」の正体は、二つの時間が重なった場所にある。人類という長い時間が用意した回路と、自分という短い時間が積み重ねた記憶。その交点で何かが光ったとき、私たちは説明のつかない安堵を覚える。どちらの時間も、意識が気づく前に流れ終えている。だから理由を探しても見つからない。理由は、自分が語り手になる以前に、すでに書き終えられていたのだ。
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「なぜか好き」が説明できないのは、それが浅いからではない。自分という意識よりも古い層で、とっくに決まっていたからだ。
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鳳条 暦
<< 2026年10月

































